家事代行の仕事で「掃除の技術」よりも大切なこと
「行儀」そして「礼儀作法」です。
今では、少し古い話に聞こえるかもしれません。
けれど、わたしにとっては今も忘れることのできない、家事代行という仕事の本質を教えてくれた出来事なのです。
早朝5時にかかってきた、一本の電話
ある朝のことでした。
まだ夜も明けきらない午前5時、一本の電話が鳴りました。
お電話をくださったのは、長年お付き合いのある家事代行をご利用いただいているご年配のお客様。
その第一声は、意外なものでした。
わたしはその言葉に、思わず背筋が伸びました。
当時、十八歳の若いママさんスタッフも在籍しており、「何かご迷惑をおかけしてしまったのではないか?」と、胸がざわついたのを覚えています。
そうお尋ねすると、奥様は静かに、しかしはっきりとこうおっしゃいました。
それは掃除のクレームではありませんでした
- 汚れが落ちていない
- 時間が足りない
- 態度が悪い――
そういった家事代行のクレームではありませんでした。
これは、「行儀作法」についてのご指摘だったのです。
日本では古くから、
「敷居や畳の縁を踏まない」という習わしがあります。
そんな文化の中で育ってこられた方にとって、それはとても大切な所作なのです。
しかし現代では、そうした作法を教わる機会も少なく、知らずに大人になる方が増えているのも事実でしょう。
家事代行は「汚れを落とす仕事」ではない
そのとき、わたしは、はっと気づかされました。

わたしたちは、お客様が長年大切にしてこられた「暮らし」と「価値観」の中に、お邪魔させていただいている存在なのだということを。
一軒一軒の家には、そのご家庭の歴史があります。
思い出があり、守ってきた習慣があり、譲れない「家のしきたり」があります。
プロの掃除技術がどれほど高くても、その心を踏みにじってしまっては、本当の意味での信頼は得られません。
プロに求められるのは「技術+礼儀」
もちろん、掃除の技術は大切です。
しかし、それと同じくらい、いえ、それ以上に大切なのが

- 玄関で靴を揃えること。
- 敷居をまたぐこと。
- 家具や仏壇、写真に対して敬意を払うこと。
それらは、マニュアルには載らないかもしれません。けれど、
そう思っていただけるか、どうか?を分ける、大切な要素なのです。
あの一言が、今のわたしをつくってくれました
あの朝、奥様がかけてくださった一言。
それは、決して叱責ではなく、次の世代へと伝えていきたい想いだったのだと、今では感じています。
あの出来事があったからこそ、わたしはスタッフ教育において「掃除の腕」だけでなく、「在り方」や「行儀」を伝え続けてきました。
これから誰かのお宅を訪ねるあなたへ

そのことを教えてくださった、あのお客様に、今も心から感謝しています。
